『恐怖の作法』を読みました

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本屋をなんの気無しにぶらぶらしていたところ見つけたのが『恐怖の作法』。
値段は2,800円と書籍としては高価な部類に入ることもあって、購入するかどうか悩んだものの、巷でよく耳にするだけでなく、自分自身もよく使いがちな「小中理論」という言葉について、そろそろ頭の中にちゃんと入れておかないといけないんじゃないかノ
という思いがずーっとあったもので購入。

おかしみあふれたホラーや、心温まるホラーではなく、怖さを追求したホラー映画をファンダメンタルホラーと定義して語る、小中千昭氏が著者。
過去仕事の詳細に関してはwikipediaをあたっていただくこととして、氏の映画界にもたらした最も大きな功績は、『邪願霊』や『ほんとにあった怖い話』などのオリジナルビデオ作品で表現してきた恐怖を感じさせる手法「小中理論」に尽きるのではないでしょうか。

もともとは、高橋洋氏や黒沢清氏などホラー仲間たちの内輪で冗談交じりに話されていたという小中理論。
そのあらましについては、絶版となっている『ホラー映画の魅力 ファンダメンタル・ホラー宣言』(岩波書店:岩波アクティブ新書、現在はシリーズ終了)に記されているものの、映画好きの友人と喋っていても、Twitter上でも小中理論について触れられることは思いのほか少なく、その実際のところについて理解している人も少ないような気がしていました(かくいう僕自身もその一人なわけですが)。

 

ホラーというよりも、寧ろその恐怖そのものに取り憑かれてきたのは、日常と非日常、現実と幻想、事実と虚構、それらの強固な境界を突き崩す手段として最適だったから。

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著者の小中千昭氏

書籍は
——–
[第一部]
2003年刊行の『ホラー映画の魅力』の大幅改訂版
[第二部] 
“箱の中に2冊の本が入っていて、1冊は新書、もう1冊は新書のデータベースを基にしたフィクション”という書籍の企画(結局頓挫してしまったそう)。
その新書版を改訂したものが第二部。
「ことりばこ」「ヒサルキ」などの実話系怪談がまとめられている。
怖さを求めてパラノイアかのように、ネットの海にダイブしていった著者による“現代”の怖さ研究。
[第三部]
本書の刊行にあたって記された、現在の著者の考えまとめ
——–
で構成されており、恐怖求道者である小中千昭氏の考えの変遷、その時々のホラーに関する氏のアティチュードがまとまめられた1冊。
もともと1冊の本であった第一部、発表こそされていなかったものの書籍としてまとめられることを想定して書かれた第二部、そして現在のホラー観をまとめた第三部がまとめられた本書は、1冊に2冊分の情報が詰め込まれているというわけで、まさしくお値段以上と言った内容の密度!おすすめ!

 
備忘録的(?+Fで検索できるよう)に、びびっときたテキストを箇条書きで残しておくと…

21p

怖くしようとしているのに、怖くないホラー程悲惨なものはない

29p

201211132138470fd『エクソシスト』は現在観ても怖い映画だろうか。私の様な、ホラー映画ばかり見続けている様な観客には、怖さという面で愉しめる映画では、最早ないかもしれない。

エクソシストの恐怖性について、あれは怖さではなく、生理的な嫌悪だと。(それは、あの映画で最もショッキングだった場面は悪魔憑きによる怪異ではなく、採血シーンの血しぶきであるから)
ただしエクソシストは、リアリティにもとづいた化け物級のすごさがある、映画としても面白い、とも評しています。
リーガンの部屋が異常現象によって寒々としていくシーンでは、わざわざ保冷肉置場にセットをくんでいたり、畜獣の断末魔の声を音声にサブリミナル的に入れていたり。
リアリティにもとづいた演出へのチャレンジがあったからこそ、化け物級の作品になり得た。それは、監督のフリードキンが元々リアリティ作家であったことも大きく影響しているとも記されています。

33p
怖さとは段取りのことであるという話

最上階に何かが居る。恐ろしい存在がそこにいる。観客と、そして支店となる登場人物たちはそこに至るまでに、その情報を蓄積させられている……そして、クライマックス、主人公たる人物が、怪異を断ち切るために、その約束された決戦の場へ向かう。この場面こそが「怖さ」なのだろうと。

そしえ、そのオチは重要ではなくて、そこにいたるまで「くるぞ。くるぞ。」感を持続させる段取りこそが恐怖を生みうると。

40p
ジョーズのショッカーシークエンスの巧緻さ、作品としての偉大さについて

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こういったショック場面を、ショッカー・シークエンスと呼ぶが、単にいきなり画面に異物を登場させ、おおきな音響をつければいいというものではない。
そこに至るまでのタメ(観客の注意力を高める静寂)、異物出現のタイミング、そしてそのショック場面を画面内で体験する俳優のリアクションのタイミングが肝要だ。

その段取りによって怖さを生み出していることを念押し。
さてさて、スプラッターは怖い映画なのかと。
多くのスプラッターは単に大きな音で脅かすだけのものとなっている。
だから、あれはファンダメンタルなホラーとは呼びませんよ!という話まで展開。
その後、話はクリーチャーものについても。そこでは「彼ら(クリーチャー)の活躍は観客にとって楽しまれるものであり、怖いものではない」と、引き続き自身の「怖さ」へのこだわりを熱弁。

81p
小中理論についての解説のはじまり。
基本的には、小中理論は「実話であることを基盤にした恐怖映画」において機能するものだと。

90p
ヒッチコック/トリュフォーの映画術にある通り、
主人公が危機に陥っている状況、追ってくる者の存在、爆発しようとしている爆弾など同時並行でおこっていることと、カットバックしてドキドキを生むのが「サスペンス」で、
それがおこる予兆が何も無く、観客に驚きをもって提示されるのが「サプライズ」であることをおさらいした後…


4109C2CJY6L._SL500_AA300_怖さとは「それ以外のもの」というのが私の主張であり、その正体を追っている次第だ

ホラー映画におけるショッカー場面は、エクソシストの箇所にも記した通り、怖さではなく「びっくり」であるにも関わらず、観客はそのシーンを強烈に覚え、そこが怖かったという記憶を持ち帰る。
要する、問題はショッカーシーンのタイミングである、そしてその段取りであるということをさらに念押し。

101p

よく、サイコ・ホラー物を評する時に「一番怖いのは人間の心だ」などとしたり顔で書かれているのを目にするが、「あなたは、本当に怖いものにあったことがあるのか。暴力的なまでに不条理な存在と対峙したことはあるのか。」と私は問いたい。

強い意志を持って書かれた文章ですねー。
筆者は、そういった意味で、本当の恐怖を感じさせられるモチーフは幽霊しかない!と話を展開します。

238p-
51weq4+m--L小説の話。
「ラヴクラフトの狂気の山脈にて」を取り上げ、クトゥルフ神話の成り立ち方は現在の「ヒサルキ」などのネット怪談においても脈々と引き継がれている事実を取り上げ、逆照射的にネット怪談の魅力について語っている。

246p-


改めて、人間が恐怖を抱くメカニズムについて述べてみよう。
人にも依るが、ヘビというものを本能的に恐怖する人は多い。目の前にヘビがいる、と認識した瞬間に、視覚情報は視床下部から前頭葉へ「如何に対処するか」という判断を促すのだが、それよりも早く作動するのが扁桃体のシステムである。このときの状態を

F or F=Fright or Fight

恐怖に身をすくませるか、闘争するかと呼ぶ。

つまり、その人物がいかに理知的な人であっても、人間の肉体システムはそれより先に反応するということ。
それは理性では受け入れられずとも、本能的に感じてしまう恐怖はあるということ、故に幽霊はとても怖いということを医学的な面から補いつつ解説。

288p-
日本における「幽霊」が海外では「ゾンビ」なのではないかという流れからゾンビブームの由来について

ゾンビ本来の出現理由は、ハイチのヴードゥー呪術によるもので、人類学者ウェイド・ディヴィスが現地調査をまとめた『蛇と虹』……によって、ゾンビとはフグ毒を中心に調合された薬物に依る仮死化、および外的操縦の術であることが明らかになっているが

これはミスリードを呼ぶんじゃないかと不安なセンテンス…
『蛇と虹』はその調査方法のインチキ具合が疑問視され、論文として認められていないはずで、そのトンデモっぷりはそこそこ有名な話。

 
最後にデータベース的に小中氏の絡んでいる仕事の中で興味深かったもの(かつ、探すのにそれほど時間のかからなかったもの)をまとめておきますので、ご興味をもたれた方はこちらから是非。

小中氏が本書を上梓される際に映画美学校で行ったトークはこちら。
本書の内容の一部がわかりやすく語られています。MCは『リング』の脚本家として知られる高橋洋氏(書籍には2人の対談も収められています)。


 
ライムスターの宇多丸による人気ラジオ番組「ウィークエンドシャッフル」で特集された『恐怖特集』に高橋洋氏が小中理論について触れている動画(音声だけですが)。

【ニコニコ動画】サタデーナイトラボ 『恐怖特集』
これ以外にも「ウィークエンドシャッフル」ではさまざまな映画特集が組まれています。
有名どころとしてはノ
【ニコニコ動画】タマフル 『日本ではすぐ観られない映画特集!』 by 高橋ヨシキ
【ニコニコ動画】『スクリプト・ドクター』?脚本のお医者さん?というお仕事
【ニコニコ動画】サタデーナイト・ラボ 『モンスター映画特集』
などなど。

 
金子アリスをビガッして作られた、本書内でも触れられている小中兄弟による(実弟の小中和哉氏が監督、著者である小中千昭氏が脚本を担当)作品『Alice6』の動画

↑全話チェックしましたが、日本の連続ドラマでは一番好きですし、アイドル映画としても秀逸。好きなことを楽しんでやって、作られた素晴らしさに満ちあふれている!!!

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