自由と壁とヒップホップ

書き始めですが、おそらくこの記事は長文になると思います。お時間ある際におすすめ。
記事の最後には今作で紹介されるラッパーの音源をまとめています。鑑賞前でも観賞後でも聞けばアがること間違いなし。

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96点

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パレスチナのヒップホップ・ムーブメントを取り上げたドキュメンタリー。占領地の検閲所や分離壁といった目に見える分断はもちろんのこと、ジェンダー差別や世代ギャップまで、さまざまな壁を音楽の力によって乗り越えていこうとする若者たちの姿を描く。イスラエル領内パレスチナ人地区で生まれた史上初のパレスチナ人ヒップホップ・グループ「DAM」が、占領や貧困、差別により生きる意味を見出せずにいる若者たちへ向けて言葉を紡ぎ、そんなDAMに刺激を受けた若者たちもまた、ヒップホップを志し、歌うことで失われていた感情が呼び覚まされていく。やがてDAMは各地で活躍するパレスチナ人ヒップホップ・グループを集めてライブを開こうと試みるが……。監督は自身もパレスチナにルーツを持つアラブ系アメリカ人の女性アーティスト、ジャッキー・リーム・サッローム
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今年ベストワン級!!!
めちゃくちゃ良かった!!!!!
号泣!!!感動した!!!
本当に素晴らしかった!!!
良すぎる!!!

シアターイメージフォーラム渋谷で観てきました『自由と壁とヒップホップ』
いやー、やっぱり映画館によって集まってくる人の種類って違いますね。武蔵野館は武蔵野館らしく、シアターイメージフォーラムは実にシアターイメージフォーラムらしいといいますか。映画館によってしっかりと性格があるのは、本当に東京の良いところですね。
シアターイメージフォーラムは、予告編もお洒落、もしくはアートな作品ばかりで若干気が引ける中の鑑賞に・・・
自由と壁と“ヒップホップ”ということで、もう少しイケイケな人も居るかなあと思っていたのですが、そんなことはなく本当に「知的かつお洒落」な方々ばかり。
ちなみに観客は30人弱くらいだったかと。まあ、あまり話題になってないですもんね。
ただ、今作は話題になってしかるべき作品ですよ、本当に!!!
誰も盛り上げないなら、俺が盛り上げる!!!
そういった謎の使命感を感じつつ、書いていければと思います。
やばいぜ、自由と壁とヒップホップ!

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今作はドキュメンタリーです。
僕は映画において、ドキュメンタリーという作品形態に極めて懐疑的でして、自ら鑑賞に行く事なんて滅多にありません。
ドキュメンタリーに対して懐疑的とはいえ『ライブテープ』『トーキョードリフター』『童貞をプロデュース』『鉄西区』など、好きな作品が無い訳ではなくてですね。
こう「ドキュメンタリー」という素晴らしきマジカルワードを盾に、「はい、これが現実ですからねー、しっかりこの現実を見つめましょうねー」とエンターテイメント性を排除した作品が大ッッッ嫌い。そして(そんなことあり得ないにも関わらず)「ドキュメンタリー」と銘打たれているからといって、スクリーンに映し出されている全てが「現実」だという大前提を敷く観客が生まれ得る可能性をはらんでいる点が苦手でして。
そういった意味で懐疑的なんですね。
よいこのみんな、ドキュメンタリーだからといって全てのありのままを写していると思ったら大間違いだぜ!という授業を公立学校の社会の授業に組み込んでほしいものですよ、まじで。

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ヒップホップらしいかと思ってMC漢の写真をなんとなく貼ってみました。さて、そんな僕がなぜこのドキュメンタリー映画を観に行ったのかといいますと、それは「ヒップホップ」という題材を取り上げているからに他ならないですね。
ここでも何度かそのことについて触れてきたつもりですが、私はヒップホップ厨なんですよ・・・
界隈的に言いますとヘッズと申し上げますか、リリパに行ったり、最近流行のMCバトルは現場はもちろん「戦極」「UMB」のDVDをほとんどコンプしていたり、せこせことFREE DLのMixTapeを漁ったり、RAP GENIUSに書き込んだり、まあ映画と同じようにヒップホップが大好きなんですね。
なので、鑑賞前からこの映画に出てくるDAM、マフムード・シャラビについてはおさえていまして、彼らを、ヒップホップを、題材にした映画があるのであれば、こりゃ観に行くしかないでしょ!といった具合での鑑賞です。

ドキュメンタリーなので話の流れを記す事に需要があるのか分かりかねますが、とりあえず書き記しておきますね。
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ムカッダマと言う曲を歌い上げるDAM。(ここでのラップにはエジプトとシリアが合併する際の冒頭をサンプリングしている)

チャックD(パブリックエネミーのメンバー)のラジオに出演しているDAM。

DAMの活動を紹介しつつ、ざっくりとイスラエルの歴史、そしてDAMのメンバーが住居を構えるリッダの現状、政治的な歌を歌う事になった経緯を説明。(DAMのメンバーはイスラエル国内に住むパレスチナ人)

名曲「Who’s the terrorist」のMVが流れる。ステージでパフォーマンスをするDAM。

続けてステージでパフォーマンスを行なうMWR(映画撮影中には解散していた)

PRについての紹介。彼らはDAMに影響を受け、ガザ地区でラップをしているグループ。

DAM、フィメールラッパーと出会い、この土地にも(実際にはごく少数だろうけど)着々とヒップホップ文化が浸透してきていると感じる。

DAM、PRの存在を知る。初ステージのライブ映像を見たDAMは、彼らの立ち振る舞い、スキルに驚嘆し、是非会ってみたいと口に出す。

PRとDAM周辺のラップ仲間は親交を深めていく。だが、PRのメンバーがガザ地区から出ることも、DAMのメンバーがガザ地区に立ち入ることも許されていない。

そうこうしていると、PRとDAM、そしてペイトリアークの合同ライブが決定する。

合同ライブに向かうPRの社内を写す。検問所が近くなるとカメラをおさめることに。

ライブ映像。ペイトリアークのライブを終え、DAMのライブに。4バースほど歌い上げたのち、DAMのメンバーであるターメルがPRはここまで辿り着けなかったと、観客に向けて説明。ここでの客の様子をPRに伝えたい、だからみんなで盛り上がってくれ、的な展開。

PRのライブ映像が挿入される。

画面は黒味になった後「何度か試みた後、ついにPRの滞在が3日ほど認められた」とのテロップ。

DAMが待っている部屋に入っていくPRのメンバー、熱い抱擁を交わす。
——
といった具合です。

いやあ、話の流れだけ記しても、まったく・・・
ただ、映画の面白さは補償します!
つまらなかったら、映画料金キャッシュバックキャンペーンとか、俺主導でやりたいくらい自信をもって勧められる映画ですよ!
途中街を歩きながらフリースタイルを決めていくシーンがあるんですが、観ようによっては、『サウダージ』での田我流を上回る強度!
 
 
さて、いつものごとくかいていきますね。
よかったところ

○ラップ(←の言葉はある程度何にでも置き換え可能)をする人のリアリティが映し出されている
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たとえば、DAMのメンバーであるターメルは「アラビア語のラップは存在しなかったから、英語で歌うしかないと思った」と発言する。
思わず、日本語ラップ黎明期のことが頭に浮かぶ!そこにしびれる!

○誰もが困難の中、自分だけしかできないことを続けるさま
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地元のラジオ局でラップ活動が紹介されるシーンがあるのですが、そこでの「DJ」のヒップホップに対しての理解はこのレベル。
社会的に圧倒的な弱者の彼らが、社会的に認められていない音楽であるヒップホップといに出会った奇跡!それだけで批評的にも価値のある映画。
それに加え、彼らはみな自分自身でしか語り得ないものを歌い上げる。その姿には感動を抱かずにはいられない。

○文化的なもの(ヒップホップ)との出会いによって自身の人生を好転させる彼らの姿
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現在におけるヒップホップの魅力って、本当にどうしようもない奴らが社会的に救われる可能性に満ちているところですよね。このままいったらヤクザか、みたいな少年もヒップホップが大好きで、Youtubeに自分で作った曲をアップすれば、アメリカの超有名レーベルからフックアップされる可能性があるわけで。(もちろんヒップホップの魅力はそれだけではないですけど)
彼らはヒップホップに出会わなければ、ほぼ間違いなくヤクの売人になっていたでしょう。そんな中、ヒップホップで自身の人生を好転させた彼らは地域貢献、地域の子供たちへの教育に走るわけですね。これを人生を好転させているといわずして、なんというのでしょう。
DAMのメンバーに出会ったことで、ラップは始めないにしろ、自身のこれからについて、ひとつの指標を手にする(文化的なものによって救われる)子供たちはとても多いと思うのです。
文化的なもので自身の人生を好転させただけで留まらず、文化的なものを受け手側にも広く届けようとしているさまは、至極感動的!!!

○どんどんラップがうまくなっていくさま
映画が進むにつれてDAMの面々はどんどんラップがうまくなっていくんですよね。その姿が微笑ましい。

よくなかったところ
×ラップの歌詞翻訳の勘所の悪さ
翻訳をされている方でヒップホップファン、それを限られた予算で探してくるのは難しいことなんでしょうなー。字幕にでてくる言葉がまったくもってビートにはまってないし、歌詞の記述もヒップホップセンスがない。
例えば
「火をつけたら 2人で爆発」という1小節分のラインは「火をつけたら 2人爆発」
もしくは「火をつけちまって 2人爆発」
とした方が
「そいつを飲み はきだす」という1小節分のラインは「そいつを飲み それをはきだす」
とした方が、ヒップホップ的にすっと耳に落ちる。そこは本当に残念でした。
 
 
ヒップホップのわかりやすい一面(ステレオタイプなファッションやステレオタイプなテーマ性)しか映していないことを悪く思う方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、あの「郷土愛」や「自国の現状」を歌うことが彼らにとってのリアルなわけですよ。
これから、生活環境が改善されればChance the rapperや鎮座DOPENESS、OFWGKTAのようなゆるいラッパーも登場するでしょう。生活環境の改善が、彼らの音楽の発展につながるわけですから、そのために協力できることがあれば、していきたいなあ、と強く思いました。

そして、パンフレットにも書かれていましたが、この映画は「ヒップホップを通して見るパレスチナの物語であり、パレスチナの現実を通して見るヒップホップの物語」なんですよね。そこのバランス感覚が、どちらにも傾倒していなくて素晴らしいんですよ(これをどちらかに傾倒させたクソイデオロギー「ドキュメンタリー」が腐る程ある中、このバランス感覚はそれだけで傑作と呼ぶべき価値があるかと)。
だからこそ、作品に多様な側面が見えてくるわけですよねー。
僕は後者に強い思いを抱きつつ鑑賞していました。
なんてったって、やるかやらないかで、迷わずやるを選んだ若者の物語!!!
そして、彼らは今日もやり続けている!!!
でもやるんだよ(©根本敬)イズム!!!
これを観て胸が熱くならない人は居ない!
サイタマノラッパーのイック、トムに熱くなったような映画ファンなら、落涙を禁じ得ない今作。無条件におすすめです!!!
 
 
ちなみに、鑑賞前の方がいらっしゃいましたら、ヒップホップの知識はほとんど必要ないですが、最低限のイスラエルの歴史はおさえておいた方が良いかと思われます。中学の世界史レベルで。

日本において、ヒップホップはバカにされがちな音楽ですよね。
まあ、この映画を観てヒップホップそのものをバカにしてくる連中は居ないと思いますが、日本語ラップをバカにしてくる人たちは少なからずいるでしょうな。
映画で描かれた彼らや、アメリカのギャングのような、強い体験がある人がヒップホップをやってんだから、そんな音楽を日本人ができるはずないでしょ、と言った具合に。
まあそれは、断じて違う!
己の立場、そして経験をもとに歌い上げるのがヒップホップなのだ!
ゆえに日本人でしか、その人でしか、歌えないものが必ずやあるのだ!
そして、ヒップホップは音楽の一ジャンルであり、たとえ無意味な内容でも、トラックとラップによって独自のグルーヴ、気持ちよさを生み出し続ける限り「音楽」として認められ続けるべきなのだ!!!と僕は思います。

「その人でしか、歌えないもの」
そういった意味でこの曲は日本語ラップとして超DOPE。
 
 
さて、最後に今作に登場、もしくは影響をうけたとコメントが入るアーテイストのYoutubeリンクを埋め込んでおきますね。鑑賞前でも観賞後でもこれさえ聞けばアッパーになれる!


     チャックD(冒頭に登場するDJ)


     アフリカバンバータ(途中で登場)

これより下は、DAMのターメルが影響を受けたと語っていたMCたちです。
(ちょっと古いですね)


     2PAC


     ノートリアスBIG


     The Fugees


     Snoop Dogg


     Big Pun
 

     Talib Kweli


     Atmosphere


     ウータンクラン


     Out cast

(漏れがあっても許して下さい・・・)

何度も書くようですが、本当に本当におすすめです!!!
あ、ちなみに(好事家のかたであれば何をいまさらって話なのですが)ヒップホップの映像センスの進化は、ここ数年凄まじく、どのアーティストもクールなPVばかりなのですよ。
ということで、ヒップホップのかっこいいPVをまとめた特集的なものを近いうちに書ければと思いますー。

と、このあたりでそろそろ。いやー、本当におすすめです!!!

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