THE ICEMAN 氷の処刑人

THE ICEMAN 氷の処刑人

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89点!

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心優しき家庭人という表の顔と、冷酷な殺人者という裏の顔をもった実在の暗殺者リチャード・ククリンスキーを描いたクライムドラマ。1960年代、米ニュージャージーで妻と2人の子に囲まれ幸せに暮らすククリンスキーは、近所でも評判の良き夫、父親だった。しかし、その裏では家族さえも知らない一流の殺し屋として約20年間で100人以上を殺害していた。死亡日時を判定されないよう、殺した相手の遺体を冷凍保存することから「アイスマン」の異名をとったククリンスキーが、表と裏の2つの顔を使い分ける様を、「テイク・シェルター」「マン・オブ・スティール」のマイケル・シャノンの怪演で見せる。共演にウィノナ・ライダー、レイ・リオッタ、クリス・エバンス、ジェームズ・フランコら。
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今年ベスト級にアガった作品なんで、えらく長文になる気がします…お暇な方のみ読んでいただければ…いや、1人でも多くの人に読んでもらいたいのがやまやまですが…

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武蔵野館で見てきたんですが、いつものごとく記事のスクラップがありました。いつもご苦労さまです。

いやー、よかった。そして辛かった。
わかる、わかるよ、ククリンスキー!

実在の大量殺人者を主人公にすえた映画で「いやー気持ちが分かる!」とのたまうのは、現実味がない、もしくは「はっ?何言うとるの?」、はたまた「被害者関係者がまだ存命かもしれないのに・・・」といろんな誤解を呼びそうですが、何度でも言う!
わかる、わかるよ、ククリンスキー!

今作は、大量殺人者リチャード・ククリンスキーが
“家族を大切にしたい”
という気持ちと
“家族を幸せにするために犯罪に手を染めている俺”
との間で葛藤するさまを作品化したものというもので、
凡百の映画であれば
“家族を幸せにするために犯罪を起こすなんてダメ絶対(©警視庁)”『アニマルキングダム』とか…
もしくは
“家族を大切にするためだったら、犯罪に手を染めてもいい”『悪人』とか…
のどちらかに結論を持っていきたがるのでしょうが、今作にそれは全く無い。

犯罪についての、どのような倫理的イデオロギーにも傾倒せず(多少の演出を加えながら)
ククリンスキー夫婦の馴れ初め、結婚、出産

犯罪に手を染めつつも、それで得たお金で家族と幸せに暮らすククリンスキー

しょうもないトラブルから危うくなる幸せな一家の生活

ククリンスキーの逮捕
を時系列通り、追っていく物語です。
そこが本当に素晴らしい。

とにかく、犯罪を起こしてしまった人→悪人!とは言いきれないわけですよ。
それにも関わらず、罪を犯したことがある=悪人と断定してしまうのは、退行した考え方でしかない!
世の中、そんな善人と悪人の2種類にわけられるわけないっつーの!
もちろん、だからといって犯罪を奨励するわけではないです。
ただ、一度犯してしまった罪を贖い、懸命に生きている人のことを、ただ1人の“人”として認めなければ、全世界の刑事罰制度は、てんでおかしなことになりますよ、ほんとに。
罪を犯したことがあるから悪人、そうでないから善人って、んなアホな。どちらもただの“人”ですよ、と。
そういった点、今作はククリンスキー自身の家族想いな面、そして罪を犯してしまう人という面をフラットに見せることで、
ククリンスキーは善人というわけでも悪人というわけでもない、ただの1人の人で、こういう考えのもと、このように罪を犯してしまったよー。
という立場を一貫して、取っているので、ククリンスキーに対しての感情は観客それぞれの受け止め方次第なわけです。
犯罪者=悪人として描く凡百の実録犯罪映画、もしくは、犯罪者にもこういう素顔がありまっせという考えに傾倒する凡百の実録犯罪映画とは違って、いたってフラットにククリンスキーを主題に映画をつくる。そのバランス感覚が本当に素晴らしい!

そういったフラットな立場で犯罪映画を撮るという目論見があったからこそ、ククリンスキーについて描こう!と企画段階で決まっていたんでしょうね。
その発想、そこにシビれる あこがれるゥ!
製作者の方々、それに則って映画を完成させたアリエルヴロメン監督、まじでGJ、そしてbig up!ですよ!

さて、(僕の中では恒例となっている)ざっくりストーリー紹介は無しにします。
代わりといってはなんですが、ククリンスキーに関する日本語情報がえらく少ないので、ざっくりとUS版Wikipediaを翻訳したものをベースにククリンスキーの人となりを記しておきますね。

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リチャード・レナード・「THE ICEMAN」・ククリンスキー(1935年4月11日〜2006年3月5日)は、3件の殺人の容疑(正しくは5件っぽいです)で、有罪と判決されたアメリカの大量殺人者。 (判決については2つの終身刑+仮釈放検討まで30年×2の懲役刑)

ククリンスキーは、殺害後に死亡時刻を消すために、死者を凍結する方法をとっていたため、「THE ICEMAN」という愛称を与えられた。 (この方法はもともとは共犯者のアイデア)

196cm、135kgと非常に巨体であったククリンスキーは、デューモントの郊外で家族仲良く一緒に生活していた。
それと同時に殺人者としての生活も送っていたが、彼の家族はククリンスキーの二重生活、そして彼の犯している犯罪に気づきかなかった。

ニュージャージー警察は特別対策本部を組織し、ククリンスキーに2名の殺害容疑疑をかけた後、1年にわたる秘密の調査を行い、彼を逮捕した。

ククリンスキーは、逮捕された当初、取り調べの際に、自身はニューアークのマフィアのための契約殺人者であり、より多くの人間を殺害したと主張していた。しかし、警察は2件の殺害しか立件できずそれにより有罪判決を受けたククリンスキーは判決に不服を感じ、インタビューを受けた。 そして、ククリンスキーは、2本のドキュメンタリー、2冊の伝記、1本の特別制作映画を製作した(このあたりソースが怪しい)。
その際のインタビューで、ククリンスキーは、様々な記憶を引き出し、1948年〜1986年の間に100から250人以上を殺害したことを主張した。(それが事実であるか否かは不明)

ククリンスキーは、ポーランドからの移民として、ジャージーシティ(ニュージャージー)の貧しい家庭に生まれた。
幼い頃から両親両方(特に父親)によって絶えず虐待されていた。
人生負け続きの両親は、ククリンスキーを虐待し、優位性を保つことで、自身の溜飲をさげていた。
例えば母親は、ほうきの柄を使ってリチャードを虐待していたり、父親も癇癪をククリンスキーにぶつけていた。

また、ククリンスキーには3人の兄弟がいた。彼の年上の兄弟フロリアン・ククリンスキーは、父親からの暴行により死んでいる。その際、ククリンスキー一家は、事故で死亡したと警察に嘘をついた。
そして、ククリンスキーには12歳の少女をレイプ、殺害し、有罪判決を下された弟ジョーゼフ・ククリンスキーがいた。
逮捕後、ククリンスキーは、ジョーゼフ・ククリンスキーの犯罪について尋ねられた時、こう返答した。
「私たちは同じ父親から生まれたのです」
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いやー悲しい子供時代を過ごしてるんですよね。
実際のククリンスキーは、奥さんに手を上げていたり、男の子がいたり、犬を飼っていたりと映画とは違うところもそこそこありますが、まあそれは映画的な構造を優先させたということで。

よかったところ
◯色温度での感情表現
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ククリンスキーが悲しみ、緊張を感じるシーンは極端に色温度が高く(画面が青く)、彩度が低くなり

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喜び、安心感を感じているシーンは色温度が低く(画面がオレンジっぽく)、彩度が高くなってる。

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刑務所にいる弟へ面会に行き、その後オカマ掘った相手に逆ギレして、車で追いつめてしまったという、自分自身の葛藤がピークに達している日のシャワーシーンでは色温度が、ごく低くなっている。降り注ぐ水よって悲しみを暗喩しつつ、色温度を低くして安心感を暗喩しているというふたつの相反する感覚を同居させることで、繊細にククリンスキーの葛藤を描写していて、アガる!

◯マイケルシャノンの名演!
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いやー、ゾッド将軍、素晴らしいですね!体がデカいから映画的に見栄えも良いし、冷酷な殺人者としてのククリンスキー、家族思いのお父さんとしてのククリンスキー、どちらにも実在感たっぷり。

◯何度もしつこく触れているように、実録犯罪映画としての巧みなバランス感覚

◯ラストシーンのククリンスキーの語り
殺人に対しての反省はまったくないが、家族に辛い思いをさせていることは後悔しているという旨の発言。
この発言をいれることで、映画としての善悪に対するアプローチ、ククリンスキーの中での善悪の葛藤したバランス感覚が同化して気持ちいい。

◯仁義なき戦いオマージュ?!
絶対に違うでしょうけど、途中、共犯者の男フリージーとククリンスキーが、この後の身の振り方について喋っている際、ポケットに手を入れたフリージーが銃を取り出すのかと思ったククリンスキーが慌てふためく。まるでスーツの内ポケットに手を入れた菅原文太に慌てふためくシーンのよう!(絶対違うけど!)

よくなかったところ
×血のリアリティの無さ
レイティングを下げるためなんでしょうけど、血の量が少ない・・・欲をいえばもっと色んな殺害方法も見たかった・・・

×途中挟まるカーアクションシーンがスタイリッシュさ皆無なカメラワーク

最後に、僕のククリンスキーに対して、この映画に対しての考えを記しておくと
「○○のために☆☆をやってしまった」という経験は一度や二度あると思うんですね。僕は数え切れないことありますが・・・
その☆☆がククリンスキーの場合、殺人だっただけで、俺とは何もちがわねーじゃん、もしかしたら俺もなにがしかやっちゃうかもなー。というか、俺のやってきたことも、殺人に比べれば軽いものの構造としては変わらんよな。
わかる、わかるよ、ククリンスキー!
というわけです。(ようやく最初に書いた一文に引っ掛けることができた・・・)
宣伝コメントでは、ノンフィクションライターの藤井誠二という方が
“人を何人でも殺すことにも、自分が殺されることにも恐怖を感じない男を生み出したのは、まぎれもなく、私たち人間の社会であることに戦慄しなければならない。”などと書いてますが、マジでふざけんな!
倫理的に間違っていることがわかっていながらも「○○のために☆☆をやってしまった」ことのある多くの人々が共感し、自身の考え、行動を省みるきっかけになりうる価値がある映画じゃ!
そして、なになにを作り出してしまったのは我々の社会によるものなのだ。などという誰もが何億回も読んだことのある文章を、物書きで飯を食ってる人間が書きますかね!

と暑苦しくなってしまいましたが、本当に良かったですよ。オススメ。
何度でも書きますが、犯罪者をネタとして撮られた凡百の実録犯罪映画とは一線を画す傑作ですよ!
事実に基づき、映画的な演出・構造は保ちつつ、フラットに制作された実録犯罪映画だからこそ、感じることのできるものが確実にある!はず!

しかし、ククリンスキーを題材に映画を撮ろうと考えると、「試していない殺し方はあまり残っていないだろう」という彼の発言から、殺人しまくりジャンル映画になりそうなものですが、いいバランスで・・・本当によかったー。(そういうのも見てみたいけど!)


さてさて、ククリンスキーが受けたインタビューの映像。放送したのはHBOという日本でいうところのWOWOWのような放送局。

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こちらはパンフレット。ちょっと縦長の判型ですねー。
US版Wikipediaをかなり参照してるっぽいところもありますが、それを差し引いてもなかなかの情報量で資料的な価値もありますし、柳下毅一郎さんのテキストも掲載されてるのでマストバイ!

2012年 アメリカ 106分 R-15+
監督+制作:アリエル・ブロメン
製作:アビ・ラーナー、エフド・ブレイバー
製作総指揮:ラティ・グロブマン

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